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DATE : 2026.10.15
北風と太陽の寓話と自力整体
― 筋肉を無理に伸ばすのではなく、自然に緩む身体をつくる ―
皆さんは、「北風と太陽」という寓話をご存じでしょうか。
北風と太陽が、旅人のコートをどちらが先に脱がせることができるか、競争するお話です。
まず北風が、強い風を吹きつけて旅人のコートを吹き飛ばそうとします。
ところが、風が強くなればなるほど、旅人は寒さから身を守ろうとして、コートをしっかりと身体に巻きつけてしまいます。
いくら北風が頑張っても、旅人はコートを脱ごうとしません。
そこで、今度は太陽の出番です。
太陽は旅人に暖かな日差しを注ぎました。
すると、旅人は次第に身体が温まり、暑くなって、自分からコートを脱いだのです。
こうして、競争は太陽の勝利となりました。

私は、自力整体を指導するとき、いつもこの「北風と太陽」の寓話を思い浮かべています。
筋肉を外から無理に伸ばして柔らかくしようとするストレッチを「北風」とするならば、筋肉が緊張している原因を取り除き、身体が自然に緩んでいくように導く自力整体は「太陽」です。
もちろん、ストレッチにもさまざまな方法がありますが、ここでは力ずくで筋肉を伸ばそうとする方法を北風に例えています。
筋肉は、無理に伸ばそうとすると、かえって身を守るために緊張することがあります。
しかし、緊張する必要がなくなれば、筋肉は自然に力を抜くことができます。
つまり、**「緩めようとするのではなく、緩む条件を整える」**ということです。
これが、私の目指してきた自力整体の基本思想です。
私は、自力整体教室を、太陽のように身体を温かく見守り、身体が本来持っている回復力を引き出す場所にしたいと考えてきました。
その意味で、自力整体教室は、別名「太陽治療教室」と呼んでもよいと思っています。
東洋医学の治療師としての思考回路
私は今から約50年前に東洋医学の治療師として歩み始めました。
そのため、私の思考回路は、長年の経験によって、すっかり治療師としてのものになっています。
では、治療師としての思考回路とは、どのようなものでしょうか。
私が学んできた東洋医学の思想の根本にあるのは、**「身体に対する絶対的な信頼」**です。
例えば、発熱、下痢、炎症、痛みなど、身体に不快な症状が現れたとします。
一般的には、その不快な症状を一刻も早く取り除きたいと考えるでしょう。
しかし、私は治療師として、まず次のように考えます。
「なぜ、身体はこのような症状を起こしているのだろうか」
「この症状を通して、身体は持ち主である私に何を伝えようとしているのだろうか」
ということです。
身体に起こる症状の中には、異常を知らせる警告であったり、身体を守るための反応であったりするものがあります。
ですから、症状だけを見て、それを取り除くことばかり考えるのではなく、**「なぜ、その症状が起きる必要があったのか」**を考えるのです。
もちろん、発熱や下痢、炎症、痛みなどには、早急な医学的治療が必要な場合もあります。症状を我慢したり、必要な治療を避けたりするという意味ではありません。
大切なのは、症状の背景にある原因を見つけ、その原因を取り除く手助けをすることです。
これが、私の考える治療師の仕事です。
治療師の仕事は、探偵の仕事に似ている
私は、治療家に最も求められる資質は、**「今、身体に起きている現象の原因を見抜く力」**だと考えています。
「なぜ、この痛みが起きているのか」
「身体のどこに問題があるのか」
「どのような経過で、今の状態になったのか」
こうした疑問を一つひとつ解き明かしていくのです。
これは、事件の真相を追いかける探偵の仕事によく似ています。
探偵が目の前の事件だけでなく、その背後に隠された原因を探すように、治療師も痛みという現象だけを見るのではなく、その原因を探します。
そして、原因が明らかになれば、それに適した方法で身体を整えていきます。
原因を改善することで、結果として痛みや不調が軽減していくことを目指すのです。
東洋医学の治療家のもとには、整形外科などで治療を受けても、痛みやコリが十分に改善しなかった方が相談に来られることもあります。
そのため、私たちは長年、痛みやコリと向き合うことになり、自然とその分野の専門家になっていくのです。
私が考える痛みの3つの原因
私は、長年の治療経験から、痛みの原因を大きく次の3つに分類して考えてきました。
1.過労による疲労の蓄積と、加齢に伴う身体機能の変化
2.東洋医学でいう、経絡を流れる「気」の停滞
3.背骨や関節の位置関係、動きの異常
これは、私が自力整体を開発するうえで用いてきた独自の分類です。医学的には、痛みには神経、筋肉、炎症、病気など、さまざまな原因があることも忘れてはなりません。
私は鍼灸治療師だった時代、主に2番目の「経絡を流れる気の停滞」に注目して治療していました。
しかし、長年患者さんと向き合ううちに、それだけでは十分に対応できない痛みがあることに気づきました。
特に、背骨や関節の位置関係や動きの問題が関わる痛みに対しては、鍼灸とは異なるアプローチも必要だと考えるようになったのです。
そこで私は、東洋医学とは別に整体術を学び、背骨や関節の動きを整える方法を研究しました。
現在の自力整体が、前半に鍼灸や按摩の考え方を取り入れ、後半に整体の技法を取り入れた構成になっているのは、そのためです。
そして、最後に残った課題が、1番目の「過労による疲労の蓄積と、加齢に伴う身体機能の変化」でした。
自力整体だけでなく、生活そのものを整える
現代は、食べ物がいつでも手に入る飽食の時代です。
食べ過ぎや不規則な食生活によって、胃腸に負担をかけている人も少なくありません。
また、長時間の労働や同じ姿勢の繰り返し、睡眠不足などによって、筋肉や神経を休ませる時間が十分に取れていない人もいます。
私は、こうした生活習慣による負担を減らさなければ、自力整体で身体を整えても、再び同じ不調を繰り返すことになると考えています。
そこで、自力整体と合わせて「整食法」という考え方を広めてきました。
何を食べるかだけでなく、どのように食べるか。
どれだけ働くかだけでなく、どのように身体を使い、どのように休ませるか。
こうした日常生活の工夫によって、内臓や筋肉に必要以上の負担をかけない生活を目指すのです。
私が考える自力整体の実践は、次のようなものです。
1.日常生活では、整食法や休養、身体の使い方を工夫して、疲労をため込まない。
2.自力整体教室では、専門家の誘導を受けながら、筋肉の緊張を緩め、背骨や関節の動きを整える。
3.自宅でも教室で学んだ自力整体を実践し、身体を整える習慣を身につける。
この3つを組み合わせることで、痛みや不調を繰り返しにくい身体と生活をつくっていく。
その方法を研究し、皆さんに伝えることが、今の私の仕事なのです。
最後に ― 北風ではなく、太陽でありたい
冒頭の「北風と太陽」の話に戻りましょう。
北風は、旅人のコートを力ずくで脱がせようとしました。
しかし、旅人はますますコートを固く握りしめました。
一方、太陽は何も強制しませんでした。
ただ暖かな日差しを注ぐことで、旅人が自分からコートを脱ぐように導いたのです。
私は、身体の治療も同じだと考えています。
筋肉を無理に伸ばすのではなく、筋肉が自ら緩みたくなる条件を整える。
身体を無理やり変えようとするのではなく、身体が自ら整っていく力を引き出す。
これこそが、私が長年追い求めてきた自力整体の姿です。
自力整体を指導するナビゲーターの皆さんにも、ぜひ、この「北風と太陽」の寓話を心に留めていただきたいと思います。
北風のように身体を力で変えようとするのではなく、太陽のように身体が自然に変わる条件を整える。
それが、私の考える自力整体の指導であり、治療なのです。
矢上 裕
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